研究概要 |
本研究の目的は、配位化学に基づいて機能性分子をデザイン・合成し、生体分子の機能解明および新たな研究手法の創出を行うことである。MRIは,生体深部の断層画像を高解像度で撮像することができる手法である。近年では、生きた動物個体内における酵素などの生体分子の挙動をMRIで観察する試みが注目を集めている。^<19>Fは天然存在比率が100%であり、^1Hに匹敵する高い磁気回転比を持つことから、比較的高感度なNMR測定が可能な核種である。また,生体内には歯や骨以外にはほとんど存在せず、内在性のバックグラウンドシグナルは全く観察されない。このため、^<19>Fを含むプローブ化合物を動物に投与し^<19>F MRI測定を行うと、プローブシグナルのみが観察される。 そこで本研究では、アポトーシスに関わる酵素Caspase-3の活性を^<19>F-MRIにより検出することができるプローブの設計・合成を行なった。Caspasae-3は高い基質特異性を有し,ペプチドDEVDのC末端のペプチド結合を加水分解する.そこで,DEVDを含むペプチドの両端にGd^<3+>錯体と^<19>F含有官能基を修飾した化合物Gd-DOTA-DEVD-Tfbをデザインし,液相法と固相法を組み合わせて合成した.この設計原理では、酵素前では、プローブの^<19>FシグナルがGd^<3+>錯体による常磁性相互作用により抑制され、酵素反応によりGd^<3+>錯体が解離し、^<19>Fシグナルの強度が上昇すると考えられた。実際に、Gd-DOTA-DEVD-Tfbとcaspase-3を反応させたところ、Gd-DOTA-DEVD-Tfbの^<19>F MRI画像では,シグナルが完全に消失していたが,Caspase-3の添加後に経時的に増大する結果を得た。本研究の設計原理は、特定の酵素だけでなく,様々な加水分解酵素への応用が可能であると同時に、今後の動物応用への展開が期待される。
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