5配位構造をとるモノオキソタングステン(IV)錯体が穏和な条件で硫黄と反応し、7配位構造のジスルフィドタングステン(VI)錯体を与えることを見いだした。硫黄化の速度はジチオレンの置換基の電子供与が大きなほど大きい。さらに、このジスルフィド錯体が水素分子と反応し元のタングステン(VI)錯体と硫化水素を与えることも見出し、生成した硫化水素を硫化銅として定量し、一分子のジスルフィド錯体は二分子の水素分子と反応することを決定した。さらに、同位体硫黄を使った速度論的実験や計算結果から、ジスルフィドタングステン(VI)錯体は動的挙動を示し、六配位タングステン錯体と平衡状態にあることを明らかとし、その種を水素分子と反応する活性種であると推定した。 3級アミンオキシドや各種スルフォキシドから5配位アルコラトモリブデン(IV)錯体への酸素原子移動反応により、安定なモノオキソモリブデン(VI)錯体を得ることに成功した。反応を速度論的に解析し、基質の置換基効果から、酸素原子のモリブデン(IV)中心への求核反応が律速であることを示し、速度定数の温度依存性から負の活性化エントロピーが得られたことから、会合機構で酸素原子引き抜きが進行することを示した。 中心金属にひずみを持たせるために、ジチオレン配位子を連結した四座配位子を設計、合成し、新モリブデン(IV)オキソ錯体を合成した。質量分析や核磁気共鳴実験からその構造を同定した。
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