本申請研究では配位プログラミングを利用して高度に情報化された新規セキュリティーデバイスの創成を目指す。本年度は強い円偏光発光(CPL)を示すキラル希土類錯体の合成とその集積化に取り組んだ。希土類錯体のキラル配位子として、軸キラリティーを有する2座配位子であるBINAPOと面不斉を有するカンファー型ジケトン配位子facamもしくはキラリティーを持たないhfaをEu(III)イオンの配位子として導入した。得られた錯体は単結晶X線構造解析からその結晶構造をあきらかにした。その結果、同一の錯体の配位子間に特徴的な水素結合相互作用が認められ、この水素結合が配位構造を強く固定化していることを見いだした。いずれも590nm付近に5DO-7Flおよび614nm付近に5DO-7F2に相当する発光バンドを示し、それぞれのバンドでCPLスペクトルが見いだされた。そのg値は[Eu(BIPHEPO)(D-facam)3]では-0.24、[Eu((R)-BINAPO)(D-facam)3]では-0.44、さらに[Eu(TPPO)2(D-facam)3]では-0.49となった。またhfa配位子を用いた錯体ではg値が比較的大きく、さらに蛍光量子収率が50%程度と非常に強い値が得られた。さらにこれらの錯体のポリマー分散膜についてCPL信号強度のマッピングを検討した結果、ホストポリマーの極性に応じて特徴的なg値の分散が見いだされた。これは膜中で多様な配位構造が局所的に分布していることに対応していると考えられる。
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