研究概要 |
本研究は、レドックス活性な多核金属錯体をユニットとした大環状クラスターを合成し、これを積層化した分子超構造体を電極表面へ構築することを目標とする。初年度にあたるH22年度では次の研究成果を得た。 種々の有機配位子をリンカーとしたルテニウム三核錯体の大環状クラスターの合成:2つの溶媒分子と1つのCO配位子を合わせ持つテニウム三核錯体と種々の含窒素二座配位子(ピラジン(pz)、4,4'-ビピリジン(4.4'-bpy)、1,3-ジ(4-ピリジル)プロパン(bpp)、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(dabco))を反応させることで、一連の大環状クラスターを合成した。生成するクラスターの員環数と生成物分布は架橋配位子の種類により変化した。例えば比較的剛直なdabcoでは六量体のみが単離され、pzでは四~六量体までが、bpyでは五~七量体までが得られた。一方、フレキシブルなbppでは二~十量体までが生成した。大環状クラスターの酸化還元特性をCVとDPVにより調べたところ、pz架橋四量体では三核ユニットが段階的に還元されることが示された。電気化学的に生起した3つの混合原子価状態の均化定数は最大10^3程度と見積もられ、これはRobin-Dayによる分類のClass IIに相当すると考えられる。三核コア間の相互作用は、架橋配位子の分子長がより長い場合(bpy)には小さくなり、プロパン鎖が含まれるもの(bpp)では観測されなかった。また、π共役性は持たないが分子長はpzとほぼ同等のdabcoでは、三核コア間に相互作用が認められた。これは静電的効果に基づく相互作用と考えられ、π共役の広がりに基づく従来系のものとは本質的に異なる。これらの知見は新しい多核錯体系の構造と電子機能の相関を明らかとする上で重要であると共に、本領域研究の界面超構造体の開発に向けて重要な指針を与えるものである。
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