研究概要 |
分子を基本単位とするボトムアップ型集積化学は、ナノメートルサイズの分子材料を創製する上で重要であり、近年その進展は著しい。本研究では、ユニット分子として分子内に強いdπ(金属)-pπ(オキソ配位子)相互作用を持つオキソ架橋ルテニウム三核クラスターを用い、新規リング状クラスターを合成することを目指した。Ruサイト2カ所に溶媒分子が配位した三核クラスターとピラジン(pz)とを1:1で反応させ、カラムクロマトグラフィーにより分離、精製することで、三核ユニットがリング状に集積した四量体、五量体および六量体を単離した。同様の方法により、4,4'-ビピリジンを架橋配位子とするリング状五量体および六量体を単離した。一方、1,3-ビス(4-ピリジル)プロパン(bpp)を用いたところ、二量体から十量体までのリング状クラスターが得られた。pz架橋クラスターでは、ユニットの1電子還元に帰属される過程が多段階波として観測された。この多段階の電子移動過程は、ルテニウム三核ユニットが分子内で相互作用していることを示している。混合原子価状態の熱力学的安定性を示す均化定数は10^2~10^3と見積もられた。一方、架橋配位子を4,4'-ビピリジンとしたとき分裂幅は小さくなり二段階波となった。非共役性のbpp錯体では分裂は消失した。また、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(dabco)を架橋配位子とした場合、環状六量体のみが得られ、このX線構造解析に成功した。この錯体は3電子ずつ計2段階の酸化還元過程を示した。定電位電解IRの測定では、混合原子価pz錯体のv(CO)に帰属されるスペクトルに顕著な広域化が見られた。これは大環状フレーム内の電子移動がIRの時間スケールで起こっている。一方dabco錯体では、IRより遅い時間域での電子交換もしくは静電反発により混合原子価が発現していることが推察された。
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