研究概要 |
有機分子と金属イオンとの間に形成される配位結合を巧みに利用し、配列が制御された多孔性の薄膜をナノスケールで作製する合理的手法を確立し、創製した薄膜とその界面の構造や特性を詳細に調べることで、センサなど高性能デバイスとしての応用の可能性を探るとともに、ナノスケールで起こる新しい現象や機能を開拓することを目的としH22年度は以下に関して研究を遂行した。 Langmuir-Blodgett(LB)法により液面に2次元分子ネットワークを形成し、Layer-by-Layer(LbL)法によりこの2次元ネットワークを1層ずつ積層させることで配位高分子ナノ薄膜の作製に取り組んだ。分子ユニットを含む展開液や金属イオンリンカーを含む下層液の種類やその組み合わせを変化させることで薄膜の構造制御を行うことを目指した。具体的には、トランス位にカルボキシル基を有するフリーベースポルフィリン(trans-H_2DCPP,右図参照)と銅イオンの組み合わせに関してLB-LbL法を適用することで、新規配位高分子ナノ薄膜の作製を行った。この trans-H_2DCPPを展開液、硝酸銅水溶液を下層液に用いてLB膜を作製した際の表面圧(π)分子占有面積(a)曲線(π-a isotherms)をFig.1に示す。比較のために純水を下層液として用いた結果も合わせて示している。硝酸銅水溶液を下層液に用いた場合では、分子占有面積が純水の場合に比べて小さい(銅イオン溶液<純水)。この結果は、4つのカルボキシル基を有するポルフィリンを用いたNAFS-1の場合(純水<銅イオン溶液)と異なっており、カルボキシル基の数が液面上のネットワークの形成に大きな影響を与えることが明らかとなった。さらに、液面上に形成したtrans-H_2DCPPから成る単分子膜を石英基板に移し取り、UV-Vis吸収スペクトル測定を行った結果をFig.2に示す。下層液が硝酸銅水溶液の場合においては、ポルフィリン分子に特有の400-500nmにみられるSoret bandが純水の場合と比較し大きくシフトしていることから、trans-H_2DCPPのカルボン酸基と銅イオンが錯形成し2次元ネットワークを形成していることが示唆される。 以上の通り、本研究で第一の目的としていた薄膜の合理的作製手法の確立を達成することができた。
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