様々な機能を持つ人工核酸を構成要素とするボトムアップ型の超構造を合理的に形成させる。さらに、そのプログラミングされた超構造の可逆的刺激応答性を利用して、その独特の環境でのみ進行する反応を種々の刺激により制御することを目的に研究を行った。 平成23年度はおもに、均一溶液中での電気化学的バイオ分析法に関して、核酸を標的にしたアプローチで研究を行った。前年度の研究において、互いに相補的なDNAコンジュゲート、フェロセン修飾DNA(Fc-DNA)とβ-クロデキストリン修飾DNA(CyD-DNANA)の化学合成は完了しており、ここではその電気化学的挙動に関する詳細な検討を行った。両DNAは二本鎖形成に際してその末端でフェロセン(Fc)がβ-シクロデキストリン(βCyD)に包接される。このことは二本鎖構造の熱安定性が、同配列の未修飾DNAに比べて大きく安定化していることから確認することができた。そのとき、Fcの電気化学特性はβCyDへの包接により著しく抑制されており、Fcの電子移動が、それを包接するβCyD(絶縁体)による遮蔽効果により阻害されていることがわかった。有機色素閥のFRET(Forster resonance energy transfer)を利用した消光に基づく種々の分析法が提案されているが、ここで観測された現象は、βCyDが電気化学法における有効な"消光剤"(quencher)としての機能をもつことを示している。この結果を受けて、1分子のDNAの両末端にそれぞれFcとβcyDを修飾した分子を設計し、これを合成・単離することに成功した。このDNAコンジュゲートは通常はヘアピン構造を形成しその末端でFc/βCyDの包接錯体が形成し、電気化学シグナルがoffの状態をとる。このコンフォメーションは標的分子と結合することで可逆的にこわれるので、それに伴ってシグナルがonになることを期待している。電気化学的分子ビーコン(ECMB:electro chemical molecular beacon)である。HPLC-ECD(HPLC-電気化学検出器)を用いて検出感度、および標的分子に対する応答特異性の検討を行った結果、この手法の有用性を示すことができた。
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