電子を媒体とするエレクトロニクスは、物理や化学の学問分野を基礎として、コンピューターや情報伝達機器など、私たちの文明にとって必要不可欠なあらゆる機器の動作原理を担っている。しかし、現在ナノサイエンス・ナノテクノロジーの発展により、コンピューターや電子機器内部の素子がナノレベルを超えて微小化され、分子・原子レベルで、もはや電子の量子トンネル効果を無視できなくなってきた。まず、プロトン移動とカップルした電子移動系PCETの機能をもつ分子素子を光の相互作用で駆動させるために、金属錯体に価数互変異性を持つオルトキノイド型配位子の導入を計画した。 目的とする分子は[RuIII(Hbim)(SQ)2]2(1)の合成である。RuイオンのdπLUMOとキノイド骨格のpπHOMO(SOMO)がエネルギー的に非常に接近しているため、混成軌道が錯体全体に広がっており、紫外光などの物理的な条件でHOMOからLUMOへと電子が移動し、Ruイオンの酸化数をRuIIIからRuIIへ変化させる現象である。単離結晶化は成功したが、現在大量合成に従事しているところである。また、混合原子価状態をもつ水素結合型PCET錯体は、外圏的な金属イオン間の電子移動と水素結合したプロトンの移動がカップルした、新しいタイプの機能性材料を作ることができる。混合原子価状態をもつ金属錯体として、可逆な多段階の酸化還元電位をもつRe錯体(ReII⇔ReIII⇔ReIV)を採用し、そのReIIIとReIV価の混合原子価錯体をHbim-配位子で水素結合させたダイマー錯体を設計し、[ReIIIC12(PPr3)2(Hbim)][ReIVC12(PPr3)2(bim)](3)を合成した。その誘電機能性を確認した。
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