本年度は、前年度に行った流通式水熱反応装置により作成したシリカ鉱物析出物の詳細な分析を行った。析出するシリカ鉱物は、溶液に含まれるAl濃度が0ppmから7ppmに増加するにつれて、アモルファスシリカ、クリストバライト、石英とより準安定な相へと変化する。電子プローブ顕微鏡でシリカ析出物中のAlとNa濃度を測定したところ、溶液中の濃度が増加すると増加する傾向にあり、特に石英の中では、NaとAlがほぼ等量含まれることが明らかになった。このことは、石英の結晶格子のSiを電荷を合わせるようにAl+Naで置き換えていることが示唆される。また、Alを含まない高Si溶液からはアモルファスシリカが核形成し、クリストバライト、石英へと変化するのに対して、Alが増加すると直接石英が析出するという現象に対して、核形成に関するモンテカルロシミュレーションを行い、定性的には水-シリカ、シリカ-シリカ間の界面エネルギーと溶解度(バルクの自由エネルギー)の相対的な大きさがこのようなバリエーションを生み出すことを明らかにした。 本実験条件である高温(430℃)、高過飽和度(アモルファスシリカの溶解度より高Si濃度)は、地殻の内部において静岩圧から静水圧に変化したときに起こりえる。そのような際に、周囲の長石から溶け出す微量なAlの有無によって、シリカ析出量が全く異なる(Alを含む場合は含まない場合の5倍以上)ということを本研究結果は示唆している。地殻の水理学的・力学的性質は亀裂内のシリカ析出速度に大きく影響されるため、微量なALの与える影響は非常に大きいことが明らかにされた。 また、葛根田地熱発電所のボーリングコアサンプルの中に存在する鉱物脈とシリカスケールのサンプルを入手し、化学組成と成長組織の解析を行い、水熱実験によるシリカ析出物との類似性を見いだした。
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