沈み込み帯深部における水の動態を把握するため、水の輸送を含む沈み込み帯の動力学モデルを構築することが本研究の第一の目的である。第二の目的は構築したモデルを背弧海盆の拡大や沈み込み帯内陸部での火成活動に対して沈み込み帯の水が持つ役割を明らがにすることである。第一の目的について、本年度は水の相図計算プログラムをマントル対流計算プログラムに直接組み込んで動力学的計算まで行うのが目標であったが、ここまでには至らなかった。しかし、マントル対流プログラムで得られた沈み込み帯の流動場を背景のマントル対流場として、水の相図を考慮して水輸送を解くことは可能になった。今後、動的にカップリングしたモデルに発展させることが容易になった。 第二の目的について、背弧海盆を引き起こすための物性パラメータを決定するためのモデルを開発し、数値シミュレーションを行った。その結果、背弧側のリソスフェアの強度が30MPa程度に低下すると同時に、沈み込むスラブが660kmで滞留する、あるいは粘性の増加する下部マントル中でスラブの変形が大きい場合に背弧側リソスフェアの伸張が起こることがわかった。このことは、背弧海盆の拡大開始に伴い強度の低下が起こることを示していて、水のレオロジーに対する役割が重要であることを示唆するものである。また、背弧側応力場を決定するメカニズムとしてスラブが引き起こすマントルウェッジの流動と背弧側リソスフェアの間における粘性結合が重要であることを示した。すなわち、背弧拡大は背弧側リソスフェアが動きにくい時のみに起こる可能性があり、動きやすいときは圧縮になることが明らかになった。
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