沈み込み帯において流体の存在は物質移動や地震・火山活動等に本質的な役割を果すと考えられている。マグネトテリック法(以下MT法)等の電磁気学的観測手法から得られる比抵抗構造は流体の分布に敏感な物理量であり、近年注目を集めている。本研究では、沈み込み帯における流体分布の全貌について制約を与える事を目的として、観測の空白域にあたる三陸沖において海底電磁気観測を実施した。観測には自由落下自己浮上式海底電磁場観測装置(OBEM)を用い、合計9地点において観測点を展開した。このうち7点において良好な電磁場データを得る事に成功し、特に2011年東北沖地震の破壊域を通る測線においては既存データと合わせて6点で電磁場データが得られた。次に、平成22年度に開発した解析手法を用い、2011年東北沖震源域における比抵抗構造の解明を進めた。その結果、プレート境界付近の比抵抗は震源の中心部で高く(>300 ohm-m)、反対にその東西の海溝部付近と海陸境界付近では抵抗が低い事が明らかとなった。このことは、断層破壊が流体の少ない領域で進行したことを示している可能性があり、今後の検討が重要となる。また、海陸境界付近の低比抵抗体は、沈み込みに伴う脱水反応を示している可能性が高い。この点については、他の地球物理、地球化学データと比較しながら議論を進める必要がある。副次的な成果として、2011年東北沖地震時に設置していたOBEMによって津波によって励起された磁場変動が観測された。磁場変動からは水位変化と同時に津波の到来方向推定が可能であり、これによって、津波の被害を拡大したと考えられる短周期の津波の波源位置が解明された。このことは、海底電磁場観測が津波の到来方向も検出可能な新たな津波計として活用可能である事も示している。
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