研究概要 |
(1)リチウムを高濃度に含む地下水のリチウム同位体組成は,その地域の非表層水(深部流体)のリチウム同位体組成と見なせる。そこで,本年は100試料程度の中国・近畿・中部地方のリチウム濃度が高い地下水試料のLi同位体分析を実施した。その結果,前弧域の地下水が特徴的に高い^7Li/^6Liを持つことが明らかとなった。このような海溝からの距離といったセッティングとの間の相関の存在は,浅い部分の影響ではなく,沈み込んだスラブといった深い情報を,浅い部分の試料(地下水)のリチウムが持つ可能性を示唆する。 (2)1995年神戸地震に関わる須磨断層付近の湧水の地震以降の15年にわたるリチウムとストロンチウムの同位体組成の時系列変化を明らかにした。その結果,1995年神戸地震以降,^7Li/^6Li比と^<87>Sr/^<86>Sr比が共に高くなってきている傾向を発見した。さらに現在の須磨断層付近の湧水調査を実施した結果,断層直上に周辺に比べて,低い^7Li/^6Li・低い^<87>Sr/^<86>Sr比の湧水が特徴的に存在することが明らかになった。この事から,地震直後の湧水の低^7Li/^6Li・低^<87>Sr/^<86>Sr比は,断層を通じて地表の放出される地殻深部流体の寄与が多かったことを意味する。さらに1995年神戸地震では地震前から塩素濃度が上昇する傾向が報告されており,これが地殻深部流体の寄与によるものであるなら,地殻深部流体の優れたツールであるリチウム同位体指標も,地震発生予測の優れた指標になる可能性を意味する。
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