研究概要 |
1.リチウムを高濃度に含む地下水のリチウム同位体組成は,その地域の非表層水(深部流体)のリチウム同位体組成と見なせる。そこで,本年は100試料程度の中国・近畿・中国・中部地方のリチウム濃度が高い地下水試料のLi同位体分析を実施した。その結果,前弧域の地下水が特徴的に高い ^7Li/ ^6Liを持つことが明らかとなった。このような海溝からの距離とセッティングとの間の相関の存在は,沈み込んだスラブ起源の流体といった深い情報を,地表付近の地下水試料のリチウムという元素に関しては保持している可能性を意味する。本年はさらに,限られた数ではあるが,西南日本とはスラブからの脱水機構が異なる東北日本の高リチウム含有地下水のリチウム同位体分布を比較のために明らかにした。 2.紀伊半島西部の温泉等の地下水のリチウム同位体調査を実施した。その結果,和歌山北西部の群発地震域付近の地下水のリチウム同位体組成が周辺地域の値と異なることを明らかにした。 3.1995年神戸地震断層付近の湧水の1950年以降の地球化学温度変化を明らかにした。その結果,1995年神戸地震の10ヶ月前の湧水の地球化学温度が,それまでに比べて40℃近く高温であるという結果が得られた。神戸地震の後,じょじょに温度は低下して,神戸地震から17年が過ぎた現在には,神戸地震前の温度水準となっている。これらの結果は,地震断層等の適切な場所において,地下水の化学組成の長期観測を実施することで,大規模な内陸地震発生のシグナルを得ることができる可能性を意味する。
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