宇宙マイクロ波背景放射(CMB)非等方性は宇宙の晴れ上がり期の姿を反映するが、CMB光子は通過する大規模構造による二次的な影響も受ける。二次的揺らぎは微小であるが、スローンデジタルスカイサーベイ(SDSS)の銀河分布データとCMBデータの相関解析から、コールド/ホットスポットがスーパーボイド/クラスターの痕跡である可能性が示唆された。 平成22年度の研究では、直径約300Mpcのスーパーボイド/クラスターをLTB時空(ダスト・宇宙項の球対称時空)でモデル化し、計算された二次的揺らぎの特徴が観測されたコールド/ホットスポットの特徴と一致することを示した。 本年度は、スーパーボイドの分布について、理論と観測の比較から更に情報を得るため、次の2つの解析を行った。 1. スーパーボイドのアバンダンスに対する観測的制限。SDSSデータはスーパーボイドがz~0.5に多数存在することを示しているが、それが正しければ宇宙全体に同じように分布していると考えるのが自然である。そこで、宇宙全体にボイドが一様分布するモデルについて、CMBの揺らぎスペクトルを計算した。その結果、λ=0ではhigh-zのボイドの寄与が大きく観測に矛盾する一方、λ=0.7の宇宙ではhigh-zのボイドの寄与は小さく観測に無矛盾であった。ボイドのアバンダンスに対する制限は得られなかったが、スーパーボイドの存在からもλ=0.7の宇宙が支持されたと言える。 2. スーパーボイドの赤方偏移空間における見かけの歪み。一般に、ボイドやクラスターの形状が球形でも、赤方空間に空間においては歪んで見える。そこで、球形のスーパーボイドについてこの効果を解析し、見かけの形状の宇宙モデル依存性を明らかにした。今後の銀河分布サーベイで、ボイドの見かけの歪みに統計的に有意な偏りが得られれば、宇宙モデル(宇宙項)に対する新たな情報が得られる。
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