インフレーションはビッグバン標準宇理論に内在する平坦性問題、地平線問題、モノポール問題などを一挙に解決し、さらに、現在観測される銀河や銀河団などの構造形成の種となる密度揺らぎをつくりだすことができる。特に最近の精密な宇宙背景輻射の温度揺らぎの観測から強く示唆されている。インフレーション模型は多岐にわたり、実隙にどのようなインフレーションが実現したのかは分かっていない。その中で、低エネルギーインフレーションはストリング理論におけるモヂュライの安定化やグラビティーノ問題の観点から有力な候補である。低エネルギーインフレーションの初期値問題を系統的に調べるという研究計画に基づき、研究をすすめた結果、初期値問題を自然に解決する為には、プラズマと熱的相互作用をし、原点において対称性が回復するnew inflation模型が魅力的であるという結論に至った。そこで80年代の研究動向を探った結果、超対称性の破れとインフレーションスケールに関して重要な関係が看過されている事に気がついた。具体的には、ゲージ相互作用を持つインフラトンがインフレーションを引き起こすためには、超対称性がインフレーションスケールよりも下に無ければならない、という事を初めて示した。更に、ニュートリノ振動実験とシーソー機構からその存在が示唆されているB-Lゲージ対称性に基づく低エネルギースケールインフレーション模型を構築し、超対称性がおよそPeVスケール以下に無ければならない事、それが現在LHC実験で示唆されている標準模型ヒッグス粒子質量と無矛盾であること、さらに、非熱的レプトジェネシス機構が自然に働く事で観測されているバリオン非対称性を説明できることを示した。これは宇宙初期進化と高エネルギー実験を結びつける非常に重要な成果となった。
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