クラゲなどの刺胞動物の卵は、多精を防止しつつ受精率を高めるための戦略として、精子の付着・融合部位(精子受容部位)を時間的・空間的に限定して形成すると考えられている。本研究は、このような精子受容部位の形成と消失の制御機構を解明することを目的としている。本年度は、まず、透明で顕微鏡観察に適した卵を放出するタマクラゲを材料に用い、精子受容部位の出現場所と出現時期について調べた。その結果、卵成熟の最後の段階、すなわち第二極体の形成と同時に、動物極の近傍のごくわずかな領域に精子受容部位が形成されることが確認された。一方、卵による精子の誘引は、それよりも早く、第一極体の形成とともに開始されることが分かった。次に、タマクラゲ卵の精子受容部位の消失機構について詳細な解析を行った。成熟卵に媒精すると、精子の融合から1分程度で動物極に付前していた精子は離脱し、その後に精子誘引が弱まっていった。媒精なしに、イノシトール3リン酸を注入して卵内のCaを上昇させた場合には、卵における精子付着・融合能力は10秒以内に失われ、その後、精子誘引が停止した。また、受精やイノシトール3リン酸の注入によって卵内のCaを上昇させた場合、MAPキナーゼ活性は少なくとも2分後までは高い状態を維持した後に低下することが明らかになった。以上の結果は、精子の付着・融合は、精子の誘引とは異なり、MAPキナーゼに依存しない機構によって制御されていることを示唆している。次年度以降の研究では、精子受容とCaやMAPキナーゼの相互関係をさらに追究していくとともに、精子受容に関与する分子の同定を行い、配偶子間の相互認証機構の「原型」や「進化」の理解につなげていく。
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