被子植物の受精では、2つの精細胞(雄性配偶子)がそれぞれ雌性配偶子である卵細胞または中央細胞と合体する。この受精様式は「重複受精」と呼ばれ、有性生殖を行う生物種の中でも被子植物にだけ見られる独特の現象である。精細胞は花粉管によって、雌性配偶子が内包される胚珠組織まで運ばれる。その後花粉管が破裂して精細胞が雌性配偶子に到達し、受精が起こるが、放出された精細胞がどのように雌性配偶子に到達するのか、また受精時には精細胞が雌性配偶子細胞に「侵入」するのか、雌雄の配偶子同士が「融合」するのかも明らかになっていない。 本研究では受精時における配偶子細胞ダイナミクスの解明を最終目的としている。そこで今年度は受精観察に利用できる配偶子可視化マーカーラインの確立を行った。受精時には配偶子細胞の細胞膜や細胞骨格の構造変化が関与することが、他生物種でも報告されている。そこで精細胞、卵細胞、中央細胞で特異的に発現するプロモーターで細胞膜または細胞骨格と蛍光タンパク質の融合タンパク質をドライブさせた遺伝子カセットをシロイヌナズナに形質転換した。これまでに、観察に利用可能な蛍光レベルを保持する配偶子細胞膜または細胞骨格マーカーラインを得ることができた。これらのラインを用い、ホール蛍光顕微鏡と共焦点レーザー顕微鏡での観察条件を検討した。現在、受粉から継時的に固定した胚珠組織を観察して得られた画像データから、受精時配偶子細胞の動態を解析中である。
|