研究概要 |
受精は、配偶子同士の接近、膜への結合・融合、精子核の崩壊など一連の複雑な過程から成り立っている。生物種を超えて、それぞれの過程には配偶子を認識するための巧妙な仕組みが備わっており、近年様々な分子が同定、機能解析されている。膜融合後、精子核から雄性前核形成に至るまでの過程はダイナミックで複雑なプロセスであり、精子核の脱凝縮し、プロタミンの解離、ヒストンの会合、転写因子を含むさまざまな制御因子の結合が起こる。しかしながら、精子核崩壊後のプロタミンの解離の過程や、精子核の脱凝縮制御因子など特に哺乳類において解析は進んでいない。本研究では、精子-卵膜融合後の認証機構に焦点をあて、卵子細胞質における精子核および精子染色体の認識制御機構を明らかにすることを目的に研究を行った。 1)新規プロタミン抗体による発現解析 精子染色体に含まれるプロタミンの受精後の動態、結合分子を明らかにするために、プロタミン(Prm1,Prm2)に対するウサギポリクローナル抗体を作成した。Prm1はN末から1-14、43-51番目、Prm2は11-25、33-46番目のペプチドを抗原とした。精子核タンパク質を抽出し、酢酸尿素ゲルによる分離、イムノブロッテイングによって、特異的なバンドを抗Prm1(43-51)、Prm2(33-46)抗体で検出することができた。また免疫染色により両抗体が精子頭部を認識することを確認した。後期精子細胞内ではプロタミンはポリユビキチン化されて分解されることから、成熟精子におけるプロタミンのユビキチン化の状態を調べた結果、成熟精子ではユビキチン化されていないことが明らかになった。 2)精子染色体認識タンパク質の同定 プロタミンの制御に関わるタンパク質を同定するために、ストレプトアビジン結合ペプチド(SBP)とカルモジュリン結合ペプチド(CBP)と融合したプロタミン(Prm1,Prm2)発現アデノウイルスベクターを作製した。このアデノウイルスによる発現解析を行った。 以上より、精子プロタミン動態を解析するための手法を確立した。これにより、精子核および精子プロタミンの認識・制御に関わる卵内分子の同定が可能となる。
|