DNAのメチル化やヒストンの翻訳後修飾はエピジェネティクスな現象の主要な因子であり、真核生物の発生や細胞分化、遺伝子発現の制御に極めて重要な働きをしている。エピジェネティクスの破たんは発癌や生活習慣病などの発症と関与していることから、エピジェネティクスを制御する因子の機能-構造解析は根本的な生命現象の解明のみならず、医薬・創薬への貢献へとつながる。その中でもUHRF1タンパク質はヒストン修飾の読み取りに関与するTudor-PHD domainと片鎖メチル化DNAの認識に関与するSRA domainを連続して有しており、エピジェネティクスな生体内現象の制御に重要な働きをしている。UHRF1の各ドメイン間の天然変性領域と考えられているlinker領域がヒストン修飾の認識、および片鎖メチル化DNAの認識に重要な役割をしていることをこれまでに明らかにしている。 本年度はlinker領域に存在するSer 298のリン酸化が、局所的にTudor domainとPHD finger間の配向を制御すること、そしてヒストンH3との特異的な結合能を失わせることを等温滴定カロリーメトリーとNMR解析によって明らかにした。さらに、Tudor-PHD-SRAのヒストンおよびDNA結合の二つの機能を有する領域においてSer 298のリン酸化の影響を調べたところ、ヒストンへの結合のみならずDNAへの結合能が著しく低下していることを生化学的な研究から明らかにした。1次配列上Ser 298とSRA domainは離れているので、この結果はTudor-PHD-SRAが高次構造を形成していることを示唆している。そしてこの高次構造形成に天然変性領域に存在するSer298のリン酸化が関与している可能性がある。現在UHRF1のTudor-PHD-SRA領域のX線小角散乱解析による溶液中での低分解能構造解析を行い、Ser298のリン酸化の有無によるUHRF1の高次構造変化の制御の解析を行っている。
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