原核生物由来のMutS(および真核生物由来のMutSホモログ)は細菌からヒトまで様々な生物に存在するDNA損傷修復誘導タンパク質である。MutSは、ミスマッチDNA認識部位、ATP結合部位、MutL-MutH結合部位の、それぞれが異なるターゲット分子を認識する部位をもつ。特に興味深いのは、ATP結合部位にはDNA修復反応に必須であるが構造をとらないループ部位(残基番号659-668)が含まれていることである。このループはATP加水分解のスイッチと考えられており、MutSのミスマッチDNA認識後、構造を変化させることでATP加水分解反応を制御していると思われる。 MutSと結合しているDNAと結合していない単体のDNAの塩基対構造パラメータを比較した結果、損傷DNAでは正常DNAと比べてOpeningパラメータの違いが大きいことがわかった。これは、損傷DNAは、MutSと結合する際に、正常DNAよりも大きな構造変化を起こすことを示している。また、MutSが損傷DNAと結合している場合は、損傷DNA修復誘導に関与する変性ループがATP加水分解部位に接近する傾向にあった。MM-PBSA法による結合自由エネルギー計算からDNA結合に重要な部位Glu38などを見つけた。またATP結合型のMutS-正常DNA複合体では結合自由エネルギーが高く見積もられたことから、MutSが正常DNAに結合するとATP加水分解しやすくなることが示唆された。更に、ミスマッチDNAおよび正常DNAに結合したMutSでは、MutSの2量体としてのダイナミクスが変化することで、DNA修復反応に必須であるループ部分のダイナミクスにも違いを与えることがわかった。
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