上皮成長因子受容体(EGFR)分子認識ドメインの構造ダイナミクスを1分子計測法によって解析し、細胞内情報処理において天然変性蛋白質ドメインが果たす役割の理解を目指している。EGFRはチロシンキナーゼ型細胞膜受容体であり、天然変性状態にある細胞質末端約220アミノ酸残基の分子認識ドメインに起こる複数のチロシンリン酸化で、十指に余る細胞質蛋白質と相互作用する。本研究では、分子認識ドメインの構造分布と構造状態遷移ダイナミクスを、2チャンネルタイムスタンプ法による単一分子内FRET検出を用いて計測する。本年度は、まず、タイムスタンプ計測結果の解析法を開発した。タイムスタンプ法は1分子の蛍光発光を単一光子検出し、すべての光子検出時間を実時間で記録する方法である。光子単位で状態変化時刻を推定するため、一定時間幅で発光強度を計測する定法に較べて同一条件下でも高い時間分解能が得られる。タイムスタンプ法を2チャンネルの1分子FRET計測に拡張し、隠れマルコフモデルと変分ベイズ法による状態変化検出法を新たに考案した。シミュレーションによる比較では、従来法はもとより、タイムスタンプ計測でよく使われているchange point detection法よりも優れた状態数と反応パラメータ推定ができることが分かった。この方法を実証するため、2本鎖DNAの作るHollyday junctionの構造変化計測を行い、予備的な状態遷移図を書いた。また、EGFR分子認識ドメインの構造変化計測へ向けて、様々な蛍光ラベル化法の検討を行った。
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