本研究では、サイクリック電子伝達の主経路を欠損するシロイヌナズナpgr5変異株を用いて、植物が代謝産物の変動(NADPHやATP)をモニターすることで、高CO2に応答する分子機構を解明することを目指す。今年度は、CO2濃度を厳密に制御しシロイヌナズナを栽培できる装置が導入できた。そこで、2週間大気CO2濃度下で栽培したシロイヌナズナ野生株とpgr5変異株を、2000ppmの高CO2濃度下で10日間栽培した。コントロールとして、大気CO2下で継続して栽培した植物を含めRNA抽出を行った。別の培養装置を用いたアレイデータをもとに、光合成関連でCO2濃度の変化に応答する遺伝子に焦点を絞り、RT-PCRを行った。3回の独立のRNAサンプリングを行ったが、安定に高CO2に応答する遺伝子は存在しなかった。光合成に関連しないが、より明瞭にCO2濃度変化に応答する遺伝子に焦点を絞る。 計画外であるが、PGR5依存のサイクリック電子伝達経路を阻害する薬剤の選抜を並行して行った。アンチマイシンAは呼吸鎖の阻害剤であるが、サイクリック電子伝達を阻害する。我々はマツのPGR5遺伝子を発現するシロイヌナズナがアンチマイシンAに耐性を示すことを報告している。そこで、異なる作用機作あるいはより効率的にサイクリック電子伝達を阻害する薬剤を得る目的で、チラコイド膜を用いたスクリーニングを行った。その結果、作用機作は同一と考えられるが、アンチマイシンAより高効率でサイクリック電子伝達を阻害する薬剤を得ることに成功した。今後、この阻害剤を用いて、高CO2応答におけるサイクリック電子伝達の一過的阻害の影響を検討する。
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