高CO2環境下では、植物光合成の環境応答は様々な順応や適応が予想される。その結果、高CO2濃度環境下での植物の光合成物質生産も変化するだろう。自然環境では光強度が時時刻刻と変化する場合が多い。光強度の変化に対する光合成の主な応答反応は光合成誘導反応である。高CO2環境下では光合成誘導反応がどのように変わるか、またその変化は物質生産にどのような影響を及ぼすかについての知見が不足している。そこで、本研究では、高CO2濃度環境下での光合成誘導反応がどのような変化を示すかを明らかにすることを目的とした。 光強度の変化に対する気孔応答が普通に開閉できるポプラ(155)と気孔開閉が非常に小さいポプラ(Peace)2品種を、380、700、1020ppmのCO2環境下で約1カ月間生育させ、同CO2濃度下で光合成誘導反応を測定した。誘導反応は光合成有効光量子密度を20μ mol m-2 s-1(弱光)から800μ mol m-2 s-1(強光)へと変化させて計測した。 その結果、飽和光合成速度の50%と90%に達するまでに必要な時間は、両品種とも栽培CO2濃度の増加にともなって短くなり、普通に気孔を開閉するポプラ155においてその傾向は顕著であった。また、飽和光合成速度に対する光合成誘導開始から10、30、60、120、300秒後における光合成速度の比率(IS)は、栽培条件のCO2濃度の上昇に伴って両品種ともに増加した。とくに、気孔開閉するポプラI55においては、誘導開始から60秒以降のISが、低CO2濃度(380ppm)と比べ高CO2濃度(700、1020ppm)で20%以上高く、顕著な傾向を示した。これらの結果から、大気CO2濃度の増加は、光合成誘導反応の気孔による律速を減少させ、とくに誘導反応後期でその効果が大きいことが示唆された。
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