研究概要 |
高CO_2環境下では光合成による同化産物の生成が促進されるが、貧栄養条件や生育停止期における個体成長の低下は葉への糖・デンプンの集積を引き起こし、光合成の「負の制御」(ダウンレギュレーション)が生じることが知られている。本研究では、落葉広葉樹を対象として、高CO_2環境における糖・デンプンの集積が個葉の温度ストレス感受性へ与える影響を光合成機能面から解明することを目的とした。材料として、1年生シラカンバ苗木を森林総合研究所温暖化影響実験棟の自然光型人工気象室において栽培した。CO_2付加を行わない通常大気(約400ppm)をコントロールとし、育成チャンバー内のCO_2濃度を800ppmに上昇させたものを高CO_2処理区とした。光合成のダウンレギュレーションを誘導するために、窒素養分の供給は1個体あたり90mgに制限した。CO_2処理を開始してから展開した葉齢およそ50日の葉を対象にして、携帯型光合成測定装置(L-6400,Li-Cor社)を用いて光合成測定を行った。葉内CO_2濃度と光合成速度との関係から、本研究における制限された施肥条件において高CO_2処理による光合成のダウンレギュレーションが生じることが確認された。温度に対する光合成反応の結果より、光合成のダウンレギュレーションが起きているにもかかわらず、葉温が30℃を越える高温域では高CO_2による光合成速度の促進効果が認められた。一方で、光阻害感受性に関しては高温域におけるCO_2処理間の違いは認められなかった。これらの結果から、大気CO_2濃度が上昇した環境下では、窒素が制限された場合においても高温域での光合成速度は上昇する一方で、光阻害を指標とする高温域でのストレス感受性には変化が見られないことが示唆された。
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