イネの交雑育種が組織的に行われるようになって100余年が経過した。この間に大気CO_2濃度はおおよそ80ppmも上昇したが、これまでの品種改良によって高CO_2濃度に適応した品種が作出されてきたかは明らかではない。今後さらに大気CO_2濃度の上昇が予測される中、これまでの品種の変遷と高CO_2に対する応答性との関連を明らかにすることは、将来の育種の方向性を検討する上で重要である。そこで、過去約100年間の遺伝的改良が高CO_2に対する応答に与えた影響を圃場条件で明らかすることを目的に、茨城県つくばみらい市のFACE実験施設で高CO_2処理(外気+200ppm)を行い、明治時代から現在までに育成された新旧主要イネ品種の収量応答を比較した。供試品種は愛国(1882年品種登録)、農林8号(1934年)、コシヒカリ(1956年)、アキヒカリ(1976年)、あきだわら(2009年)の5品種である。粗籾収量はFACE処理によって有意に増加したが、増収率は品種により有意に異なった。すなわち、旧品種である愛国・農林8号および最新品種であるあきだわらが20%以上の高い増収率を示したのに対し、コシヒカリ・アキヒカリの増収率は高くなかった。収量構成要素のうち、穂数は旧品種の方がFACEによる高い増加率を示したが、1穂籾数の増加率は新品種の方が高い傾向にあった。また、登熟歩合も粗籾収量と同様に、愛国・農林8号ではFACEによって大きく増加したのに対し、アキヒカリ、コシヒカリへの影響は小さかった。稔実籾数に登熟籾1粒重を乗じて計算した登熟シンクキャパシティーと実収量との間には、品種・CO_2処理にかかわらず高い正の相関がみられた。このことから、高CO_2濃度条件ではシンクの大きさが収量の制限要因であり、シンクサイズのCO_2応答性が新旧品種の収量応答の違いの主因と推察された。
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