研究概要 |
本研究は,ヒト染色体改変システムを用いて,父性発現遺伝子である長鎖ncRNA UBE3A-ATSのノックアウトを行い,UBE3A-ATSによる遺伝子発現制御機構を明らかにしたいと考えた。そこで,マウスA9細胞中の父方ヒト15番染色体を微小核細胞融合法により,ニワトリDT40細胞に移入した。DT40細胞は高頻度に相同組み換えが誘導され,DT40細胞に移入したヒト染色体もこれに従う。従って,ヒト染色体をDT40に移入することで,ヒト染色体上の任意の領域を改変する事が可能となる。本年度は,UBE3A-ATSの転写開始点近傍のCpGアイランド(PWS-IC)を相同組み換え法により欠失させ,UBE3A-ATS欠失の影響を15q11-q13領域の遺伝子発現およびクロマチン構造の視点で解析した。PWS-IC欠失染色体でUBE3A-ATSの発現を解析したところ,SNRPN,HBII-85を含めたUBE3A-ATS転写産物の消失を確認した。さらに,UBE3A,GABRB3,MAGEL2など,15q11-q13領域の遺伝子発現をRT-PCRにより解析したところ,興味深いことにMAGEL2遺伝子の発現が消失していることが明らかとなった。このことから,何らかのメカニズムで長鎖ncRNA,UBE3A-ATSがMAGEL2遺伝子の発現を制御している可能性が示唆された。また,UBE3A-ATS遺伝子領域は,父方アレル特異的なクロマチン脱凝集が観察されることがすでに報告されている。そこで,PWS-IC欠失染色体におけるクロマチン脱凝集についてDNA-FISHで解析したところ,正常染色体と変わらず父方アレル特異的なクロマチン脱凝集を維持していた。今後,長鎖ncRNA,UBE3A-ATSの細胞核内での局在を明らかにすることでUBE3A-ATSによる遺伝子発現制御機構を明らかにしたい。
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