本研究では、哺乳類初期胚の発生メカニズムの解析を目的として、胚をとりまく微小環境を時間的・空間的に制御可能な新規の哺乳類胚アッセイプラットフォームの構築を目標とした。分子生物学のめざましい発展に伴い、発生に関わる分子レベルでの理解は飛躍的に進んでいるにもかかわらず、哺乳類胚の発生メカニズムについては未知の部分が多い。哺乳類胚の初期発生は母胎内のシーケンシャルに変化する環境の中で進行するが、従来の実験手法は、胚をとりまく微小環境を精密に設計・制御することが困難であり、発生研究の進展を妨げる大きな障壁となっている。この問題を解決するために本研究では、マイクロ流体技術を活用して、微小空間内に固定化した哺乳類胚を空間的・時間的に制御された液性因子に曝露可能で、なおかつ逐次的に胚の挙動を観察可能なシステムの開発を行うこととした。平成22年度は、胚挙動観察のためのプラットフォームのコアとなるマイクロ流体デバイスの開発を実施した。デバイスは、多孔質膜によって上下に隔てられている2-コンパートメント型の流路構造であり、上側流路には胚を任意の位置・方向で捕捉するための微小構造を設けた。下側流路では層流現象を利用した流体操作によって任意の物質やその濃度を制御すると、多孔質膜を介した拡散現象によって下層に形成された物質分布や濃度勾配を上層流路内に形成することができる構造になっている。このような二層構造のデバイスデザインによって、流れによる勢断応力等の物理的影響をキャンセルしながらも、微小空間での液性因子分布の制御を可能とした。
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