発生初期における細胞分化の基盤には、極めてダイナミックなクロマチンの構造変化が基盤にあると考えられています。しかし、これまでのクロマチン構造を解析する手法は多くの細胞集団を必要とするなど、発生初期の解析は困難でした。本研究では、私たちが開発したFRET蛍光ラベルペプチドによるヒストン修飾酵素活性測定法を用いて、細胞内のヒストン修飾酵素の変化を直接可視化することを目的としています。本年度は、細胞内標識に適した新たなFRETペアによる蛍光標識ペプチドを合成するとともに、分子センサーとなるリジルエンドペプチダーゼの合成法に改良を加え、これまでホスト細胞の中で不溶性分画に含まれていたリコンビナント酵素の回収率を高めることに成功しました。さらに、ヒストンH3リジン4(K4)またはK36がメチル化されたFRET標識ペプチドを用い、培養細胞(HeLa)でK4およびK36の脱メチル化酵素活性を測定し、細胞固定法の条件検討およびFRET標識ペプチドの細胞内における発光強度、バックグラウンドの評価を行っています。一方、K36選択的メチル基転移酵素のひとつであるASH1に対する抗体を用いてChIP-seq解析を行い、ENCODEプロジェクトのモデル細胞の一つになっているK562細胞におけるASH1のゲノム結合パターンを検討しました。これまでに、ASH1といくつかのヒストン修飾との相関を示唆するデータを得ています。今後、細胞内のヒストン修飾酵素活性を可視化する技術によって、均一なクロマチン構造特性をもつ細胞だけを集めることが可能になります。従って、初期発生に於けるクロマチン動態の解析でも均一な細胞集団を用いてChIP-seqのような解像度の高いクロマチン構造解析を行うことが可能になり、初期発生の基盤にあるクロマチン構造に関する新たな知見を導くものと期待されます。
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