哺乳類初期発生は細胞間相互作用を介して柔軟、かつ厳密に統御されて進行する。これまでにこの細胞間相互作用に関わる多くの分子が同定されて来たが、どのような仕組みにより細胞間での情報分子の受け渡しが行われ、またシグナル分子の消長がなされているのかは分かっていない。本研究は細胞間相互作用に異常をきたすことで初期胚致死なる変異体マウスより同定されたVps52が、哺乳類初期発生過程における細胞間相互作用にどのように関わっているのかを明らかにすることを目的としている。組織特異的Cre発現マウスの入手に手間取っており、in vivoの系でのコンディショナルノックアウト解析は予定よりも遅れているが、変異体ES細胞を用いたキメラ胚様体形成実験により、本来正常に分化することが出来ず多能性を喪失してしまっているVps52欠損ES細胞が、機能的Vps52を発現するES細胞と共存することにより多能性を回復し多種多様な細胞へ分化できるようになることがわかった。この結果は、未分化幹細胞が多能性を発揮するためにはVps52を介した細胞間相互作用が必要であることを示唆している。Vps52のマウス初期胚における発現・局在パターンを明らかにする目的で、V5 tagを付加したVps52 mini-geneを持つトランスジェニックマウスの作製に成功したので、今後初期胚におけるVps52の細胞内局在の解析を進めるとともに、tagに対する抗体を利用してVPS52と相互作用するタンパク質の同定を進める計画である。さらに、VPS52がどのような細胞間シグナルと関わっているのかを明らかにするために、正常細胞と比べてVps52欠損細胞で影響を受けているシグナル系を、変異体マウス/変異体ES細胞/変異体線維芽細胞を利用して、in vivo/in vitroの両側面から解析を進める計画である。
|