公募研究
生活習慣病における代謝異常の中でも、脂肪酸の代謝異常が生活習慣病の発症と悪化に深く関わっている。我々は脂肪酸伸長酵素Elovl6の欠損マウスの作製・解析により、本酵素が生活習慣病の発症に関わっていることを明らかにした。本研究では、Elovl6欠損系および過剰発現系を用いて、Elovl6によって制御される細胞内脂肪酸組成の変化によって炎症がどのように制御されるのかを、特に肝臓に着目して解析し、代謝性疾患において起こる炎症の内因性リガンドの特定と、細胞内脂肪酸組成の変化が自然炎症に及ぼす影響を解明することを目的とした。NASHを誘発するため高脂肪・高ショ糖・高コレステロール食を与えると、野生型マウスでは肝臓の著明な脂質蓄積と炎症、酸化ストレス、線維化の亢進が観察された。Elovl6欠損マウスでは野生型マウスと同程度の肝臓の脂質蓄積を認めたが、炎症、酸化ストレス、線維化が抑制された。またアデノウイルスを用いてマウス肝臓でElovl6を過剰発現させたところ、血中ALT値の上昇と肝臓の炎症細胞浸潤が認められ、肝障害が引き起こされた。肝臓では炎症、酸化ストレス、線維化関連遺伝子の発現が著明に亢進した。肝臓トリグリセリド含量はやや増加したが、コレステロール含量には変化がなかった。肝臓の脂肪酸組成を調べたところ、Elovl6により制御される炭素数16および18の飽和・一価不飽和脂肪酸の組成変化に加えて、n-6系多価不飽和脂肪酸の組成変化も認められた。ヒトでは正常患者に比べてNAFLD・NASH患者の肝臓ではElovl6発現が有意に増加しており、肝脂肪化率や血中トリグリセリド、ALT値と高い相関が認められた。以上の結果から、NASHの発症・進展において、Elovl6による脂肪酸組成の変化が肝臓の脂質蓄積のみならず炎症、酸化ストレス、線維化の活性化にも重要であり、Elovl6の阻害がNASHの新しい治療戦略になる可能性が示された。
すべて 2010 その他
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (2件) 備考 (1件)
Prostaglandins Leukot Essent Fatty Acids.
巻: 83 ページ: 75-81
J Atheroscler Thromb.
巻: 17 ページ: 601-9
Expert Opin Pharmacother.
巻: 11 ページ: 817-28
J Lipid Res.
巻: 51 ページ: 1859-70
J Biol Chem.
巻: 285 ページ: 11681-91
http://www.u-tsukuba-endocrinology.jp/