研究概要 |
細胞刺激に応答してヒトのアスパラチルtRNA合成酵素(hAspRS)がN端のtRNA結合ドメインをD1断片として切り離すこと、また、このD1断片は、エンドソームあるいは細胞外で、TLR2およびTLR4に結合して活性化し、前炎症性サイトカインIL-8やTNF-αの分泌を促進することを示唆した。そこで、hAspRSの結晶構造を決定し、細胞刺激に応答して生成するD1断片がTLRを介して作用していることを明らかにすべく結晶構造学的アプローチを検討した。結果は、hAspRSの結晶構造を2.0Å分解能で決定し、D1断片が内在性のプロテアーゼによって切断され、TLRの活性化に重要なN端の両親媒性ヘリックスを提示することを示唆した(論文投稿中)。現在、TLR2,4に関して、1L当たり数ミリグラムの細胞外ドメインを発現する系の構築に成功し、内因性リガンド候補D1との結合実験および複合体の結晶化を試みている。 ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV)は,極めて予後の悪い成人T細胞白血病(ATL)を引き起こす主因となっているウイルスである.HTLVゲノムがコードするタンパク質であるTaxはウイルス増殖に必須の因子であり,リンパ球の増殖を刺激することで細胞の癌化を開始させるため,ATLの病因の一つであると考えられている.Taxは,CREB,NF-κB,NEMO/IKKγなど,免疫応答,炎症反応に関わる様々な因子と相互作用し,さらにはTax自身もユビキチン化・SUMO化されることが報告されている.Taxは,秩序だって制御された翻訳後修飾による細胞内シグナル伝達を攪乱することで,サイトカインやその受容体の遺伝子を活性化して細胞増殖を刺激し,最終的には細胞の癌化を引き起こすと考えられる.特にTaxが,NEMO/IKKγを介してIKKを活性化することで,NF-κBシグナルを活性化することで,慢性炎症を惹起し,癌が発症する.しかしながら,Taxは構造既知のどの蛋白質とも類似性を持たないため,どのように各因子と相互作用してシグナル伝達に影響しているかは不明である.我々はすでに,昆虫細胞を用いてTaxの大量調製に,世界に先駆けて成功し,大腸菌で大量調製したNEMO/IKKγの様々な断片とのGSTプルダウンにより,NEMOのTax結合領域を同定し,複合体の結晶化を推進している.
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