研究概要 |
SHARPIN,HOIP,ROILから構成されるユビキチンリガーゼLUBACは,RIP1タンパク質にK63型ユビキチン鎖を結合することで,キナーゼなどの下流の様々なシグナル因子を繋留するscaffoldを形成し,NFκBシグナルを活性化する.一方,A20タンパク質は,RIP1に結合したK63型ユビキチン鎖をK48型に変換することで,RIP1をプロテアソーム分解し,NFκBシグナルを抑制する.さらに,大阪大学の岩井博士・徳永博士らとの共同研究により,A20はNEMOに結合した直鎖型ユビキチン鎖に結合することで,さらなるNEMOの会合を阻害し,IKKの不活性化,ひいてはNFκBシグナルの抑制に働くことを明らかにした.我々は,さらに,A20と直鎖型ユビキチンの複合体の構造解析を通じて,A20による直鎖型ユビキチン鎖の構造変換を介したNF-κBジクナルの抑制機構の構造基盤を解明した(論文投稿中). Autotaxin(A,TX)/NPP2はメラノーマ患者などの血中に多く存在し、リゾファチジルコリンからリゾファチジン酸を合成することで、細胞の遊走活性を上昇させ、がんの転移・浸潤や線維症を引き起こすことが知られている。そこでNPP2の結晶構造を決定し、がん転移を抑制する薬剤の創製を試みた。東北大学の青木博士との共同研究により,マウス由来のATXと脂肪酸種の異なる5種類のLPAの複合体の立体構造をX線結晶構造解析によって1.7-2.0Å分解能で決定した.興味深いことに,活性部位に通じる疎水性チャンネルが存在し,そこに内在性のLPAが結合していることが判明した.疎水性チャネルを塞ぐような変異体酵素を作製したところ,LPA産生活性は保持されている一方で,細胞運動性促進活性が著しく低下していたことから,NPP2によって産生されたLPAは,NPP2のもつ疎水性チャンネルを通って直接LPA受容体へと受け渡されることが示唆された(Nishimasu et al.,Nat.Struct.Mol.Biol.,2011).さらに,東大薬・長野教授との共同研究で,NPP2に対する高親和性の阻害剤を4種類得て,複合体の結晶構造解析を行い,うち2種の阻害剤において明瞭な電子密度を得ることに成功した.阻害剤はLPAポケットを占拠し,触媒活性を阻害する機構を原子分解能レベルで解明することに成功した.さらに,本結晶構造をドラッグデザインにフィードバックすることによって,マウス個体に注射することでLPAの産生を激減させ,また血清中においてがん細胞の運動性を低下させる阻害剤の創出に成功した.現在,製薬企業との共同研究により,新規の抗癌剤,抗線維症剤の開発を目指している.
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