本研究では、血液凝固因子フィブリノーゲン(Fbg)とToll様受容体(TLR)との間で、内因性リガンド・病原体センサー間の認識応答が成立すること、さらにこれに伴う炎症惹起、炎症性サイトカイン分泌誘導機構を明らかにすることを主目的とし、急性あるいは慢性移植片対宿主病(GVHD)や血栓性微小血管炎(TMA)等の炎症性病態の解析を通じ、血液凝固・線維素溶解系(線溶系)を起点とした炎症反応という新機構の解明、またこれを基礎とした疾患制御法開発の基礎までをその範疇としている。今年度の研究で、研究代表者らは、急性GVHD患者の血液中で、発症初期には、Fbgやプラスミン生成に象徴される凝固・線溶系の亢進が認められ、これに伴って、GVHDの病態形成に関与する炎症性サイトカインの細胞外ドメイン分泌を制御するマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)の活性化とTNF-αやインターロイキン受容体等の炎症性サイトカインの血中濃度の上昇が誘導されることを明らかにした。さらに代表者らは、F1ハイブリッドのマウスモデルにおける急性GVHDの誘導に成功し、マウス血液中においても同様のMMPの活性化とサイトカイン血中濃度増加が認められること、さらにMMP阻害剤の投与により、GVHDによって形成される各種臓器中の組織病変や症状が、有意に改善することを明らかにした。現在、これらのGVHDモデルマウスにおける凝固・線溶系因子群の動態及び生体組織中のTLR発現状況について精査中である。MMP阻害剤は、欧米での臨床治験でその深刻な副作用が明らかとなって以来、臨床応用の道が事実上閉ざされた状況になっている。代表者らは、凝固・線溶系の制御がTLRを介し、これら炎症性疾患病態の形成に関与すると捉えており、本研究成果は、これら疾患の新規分子標的療法開発の基礎としても極めて重要な情報を提供するものと考えられる。
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