本研究は申請者らが独自に研究を展開してきた腸管上皮細胞による粘膜免疫の機能調節に注目し、自然炎症の調節異常がもたらす炎症性腸疾患の発症メカニズム解明と新規治療法の開発基盤を目指すものである。その解析には細胞株を用いた解析系よりも腸管上皮細胞の初代培養細胞が理想的であるが、これまでその樹立は不可能とされてきた。しかし我々は当該研究期間において、大腸組織から単離した上皮細胞の長期培養系を確立することに世界で初めて成功した。その概要はすなわち、1)マウス大腸組織から上皮細胞を単一細胞として単離し、2)無血清培地中でWntシグナルを刺激しつつ、3)マトリジェルを用いて3次元的に、4)1年以上に亘り継代培養するものである。またこのように培養された上皮細胞のうち、5)Lgr5陽性腸前駆細胞はex vivoにおいて吸収上皮細胞、神経内分泌細胞、杯細胞など、全ての系統に分化誘導されることが確認された。さらに、6)このようにex vivoにおいて培養されたLgr5陽性上皮細胞を、DSS実験腸炎によって形成されたマウス大腸組織中の潰瘍部分に移植することに成功し、7)この移植上皮細胞は修復部位において全ての系統に分化誘導されながら、正常な単一の上皮細胞層を形成することがin vivoで観察された。こうした培養技術の確立は免疫、発癌、再生など様々な分野において、より生理的な解析ツールとして有用であると期待できる。我々はこの技術を応用し、これまで困難であった上皮細胞の自然炎症調節機構を解析する予定である。
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