好中球は、生体が細菌などに感染した際、感染局所にいち早く集積して感染源を除去する、感染防御の最前線で機能する免疫細胞である。これまで、好中球は、貪食や活性酸素の放出により、細菌等を不活化すると考えられてきたが、最近、これらのほかに、自ら細胞死を引き起こし、自身の核酸と抗菌タンパク質を成分とする、好中球細胞外トラップ(NETs)とよばれる網目状のトラップを形成することにより、効率よく細菌を補足して除去していることが明らかになった。一方で、NETsが本来細胞内にあるべき成分を細胞外に露出させるため、それ自体がリガンドとなって炎症を誘発して、生体を傷害する可能性が取りざたされている。本研究では、NETsの形成と炎症誘導機構を分子レベルで解明するに当たり、遺伝子改変個体の作製が比較的容易なマウスを用いて検討することを計画している。しかしながら、これまでNETs研究によく用いられてきたヒト好中球と異なり、マウス好中球はNETsが惹起されにくいとされてきた。そこで、マウス好中球におけるNETs形成の条件を検討した結果、無血清のイスコフ改変ダルベッコ培地を用いることにより、マウスにおいても効率よくNETsの形成が誘導できることを見いだした。この条件を用いて、活性酸素の産生を介してNETs形成を誘導すると考えられるDOCK2を欠損した好中球を用いて検討したところ、PMAにより誘導されるNETs形成が障害されており、NETs形成がDOCK2を介したシグナル伝達系により誘導されていることを明らかにした。
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