本研究では親の社会経済的背景が児の発育や肥満形成へどのような影響を及ぼすのか、既存の前向きコホート研究においての成績を基に明らかにすることを目的とした。 検討にあたっては、2001年1月から開始された「ダイオキシン類等による胎児期曝露が幼児の発達に及ぼす影響の前向きコホート研究」(主任研究者:佐藤洋、東北大学大学院医学系研究科教授)のデータを用いた。しかしながら、本研究に対応したデータベース構築がなされていなかった。そこで本年度は、児の身長・体重の推移、対象者の基本特性、身体的要因、社会経済的要因、妊娠期における食生活状況等に関するデータベースの作成を進めた。得られているデータに関する精査、データベース構築が概ね順調に推移し、児の発育に影響を及ぼす要因を明らかにするためのデータ解析を進められた。 コホート研究対象児の体格の推移について観察した。出生時の体格は42ヶ月時の体格と高い相関関係を示すが、84ヶ月時にはそれほど高い相関を見出すことは出来なかった。特に、42ヶ月で過体重児である場合、42ヶ月に過体重児で無い場合に比し、84ヶ月で過体重児になる確率が高まることが観察された。このことから、肥満予防の方策として出生時体重が低体重で無いならば、少なくとも3歳頃までに肥満ではないようにすることが重要と考えられた。また、親の収入と子どもの体格や知能指数との関係について解析を進めた。その結果、84ヶ月児の体格と親の年収との間に有意な関係は認められなかった。親の年収とIQとの関係についてみると、言語性IQにおいて年収が高い群に比し、低い群で児のIQが低くなることが示された。社会経済的要因の影響は個人の生活史を通じて蓄積され、健康に影響を与える可能性も指摘されていることから、今後さらなる観察が必要であると考えられた。
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