本研究の目的は、内容の限られた地域ごとの集計的な観測データと、少数であるが内容の豊かな個々の人間・企業に対するミクロなデータを駆使し、現在の地域格差の実情を正しく理解するばかりでなく、地域格差を発生・拡大させる機構を解明するための方法論を提案することである。今年度の成果は次の3点にまとめられる。 (1)地域格差の統計分析においては、地域という集計単位ごとに得られたマクロな集計データ間の共変関係から因果推論を行うことが求められる。その場合複数の影響要因が相互に相関をもつことが多く、「多重共線性」の回避が重要なテーマとなる。既存の対応手法のレビューから、対象とする変数をアドホックに絞り込んだり、不偏性を犠牲にする方法が用いられていることを示した。 (2)従来セレクションバイアスの回避に用いられてきた「傾向スコア重み付き回帰」を解釈しなおすことにより、多重共線性の回避に利用できることを示した。 (3)2005年時点の日本全国の市町村単位の統計データに適用して、多重共線性を回避しつつ、人口当たりの死亡率に対する医療関係の変数の影響力の分析を行った。
|