物質的に困窮していなくても、周囲に比べて自分の財や社会的ステータスが著しく低いと感じる場合(相対的剥奪状態)、その心理社会的ストレス(希望の喪失・劣等感・ねたみなど)から多彩な健康問題を生じ得る。これを相対的剥奪仮説といい、社会経済格差が健康格差を生み出す心理社会的メカニズムとして注目されている。本研究の目的は、地域社会レベルの要因の時間変化や作用修飾を明示的にモデル化するアプローチにより、特に相対的剥奪仮説に注目して、社会経済格差が不健康と健康格差を生み出す心理社会的なメカニズムを、国内外の大規模な統計データを用いて明らかにすることである。平成22年度は、メタ回帰分析のアプローチにより、所得格差と不健康との関連性を修飾する要因について、検討し、所得格差の閾値効果(格差水準が一定以上になると健康への悪影響が増加する)、時代効果(90年以降のデータのほうが強い関連を示す傾向にある)、ラグ効果(所得格差と健康指標の測定時期にタイムラグがある分析ほど、強い関連が見られやすい)といった関係が、個人の社会経済状況や所得格差の算出に用いる地域単位に関わらず見られることが示された。また、スウェーデンの研究者と連携し、同国の国勢調査及び死亡者データベースとをリンケージした悉皆調査による縦断データを用いて相対的剥奪仮説を検証し、日本で過去に観察された結果と同様の結果が示された。
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