研究概要 |
社会のすべての構成員が,公平で効率的な保健医療サービスが受けることができるような保健医療制度を構築するために,医療保険の創設や改革に必要な社会的条件を,保険に関与する保険者・被保険者・医療従事者・政府などをプレーヤーと考え,ゲーム理論的に分析することにより明らかにすることを目的に本研究を実施した。 本研究では,まず,医療保険システムの基本的な構造に関して,被保険者(H,health)・患者(D,disease)・医療機関(C,care)からなる,医療保険の基本構造モデル(HDCモデル)を構築し,その基本的な特性について分析した。HDCモデルには,医療機関での単位時間当たりの治療人数に上限があること(ハンドリングタイム)が組み込まれている。その結果,医療サービスにより有病率を下げることができること,医療供給体制の確保(アクセスのよい医療)のためには,必要な医療費の投入が不可欠であること,医療保険の設定によっては不採算部門が生じること,「出来高払い(Pay for service)」のもとでは必ずしも質の高い医療を供給する医療機関が増えるとは限らないこと,などが,このようなシンプルな基本構造のもとでのシステムの振る舞いとして説明できることがわかった。このことは,今後医療保険制度について理論的に分析・考察する上で,重要な基盤となると考えられた。 このような医療保険の基本構造をベースとして,次年度の研究として,社会格差と医療保険へのアクセス・負担の分担に関するゲーム理論的アプローチに取り組む予定とした。
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