研究概要 |
実生活において、複数課題を並列的に処理しなければならない場面にしばしば直面する。その処理においては、同時進行的に複数課題を解決するのではなく、現在進行中の課題('主課題'とする)を一旦棚上げし、割込んできた課題を主課題と独立に処理、しかる後に主課題に復帰するというような戦略をとることが殆どである。この過程では、割込課題中も主課題に関する情報を保持し、割込課題後に主課題を正しく行えることが決定的に重要である。上記の背景から、前頭前野・運動前野では、主課題を制御するシステムと、割込課題を制御するシステムが形成され、これらのシステムが互いに影響しあいながら行動を正しく制御している可能性が考えられる。本研究の目的は、動物が複数課題の並列処理を行っているときの前頭前野・運動前野の活動を電気生理学的手法で計測し、各領野の機能特殊性と、複数のシステムが統合的に働くための動作原理を解明することである。 日本ザル2頭に割込み行動課題を訓練した。課題はブロック構造となっている。ブロック最初の2試行[主課題(視覚誘導)]では、予め定められた4種の動作(A,B,C,Dとする)のうち2つの動作を、視覚指示刺激に従って行う。次の2試行[主課題(割込前)]では、直前に行った2つの動作を記憶に基づき順序正しく行う。次の試行[割込課題]では、主課題と無関係に、いずれか1つの動作を視覚指示刺激に従って行う。次の2試行では、主課題で行っていた2つの動作を記憶に基づき再現する。前頭前野細胞活動を解析した結果、割込時に主課題の1番目の動作と異なる動作を指示された時に選択的な活動、および割込直後の試行の1番目に直前の割込動作と同じ動作を行おうとするときに選択的な活動を見出した。これらの特徴的な細胞活動は、主課題を制御するシステムと割込課題を制御するシステムとが互いに影響しあって生成された新たな情報表現であると考えられ、割込課題中も主課題に関する情報を保持し、割込課題後に主課題を正しく再現するためのシグナルとして働く可能性があることを明らかにした。
|