メス鳥海馬機能を調べるために蛍光イメージングを用いた研究を進めた。麻酔下のキンカチョウにさえずりとホワイトノイズを聞かせた場合の神経応答を、(1)神経細胞活動に依存したpH変化イメージング、(2)最初期遺伝子ArcのmRNA発現解析、(3)最初期遺伝子zenk産物の抗体染色法、を併用して調べてきた。これらの方法はそれぞれ利点・欠点を有しており、(1)は複数のさえずりに対する応答を時間・空間的に繰り返し解析できるものの、その空間分解能は悪い(細胞レベルでの解析ができない)。また(2)では細胞レベルでの神経応答を脳深部にわたって調べることは可能であるが、catFISH法を利用したとしても、概ね1時間程度の間隔を持つ2回のイベントの関係しか調べることができないという欠点がある。また(3)の方法では、細胞レベルで解析が可能であり、また細胞の特徴付け(例えばどのような神経伝達物質を有している細胞が神経応答するのかという情報)を得ることが可能であるものの、複数刺激に伴う時間的な応答は解析できない。このような利点と欠点を有する複数の手法を併用することにより、「キンカチョウ海馬体の特定部位における神経細胞群は、脳の他の部位からのセロトニン入力を受けることにより、さえずり特異的に神経活動を亢進させる。」ものと考えている。 また海馬領域とそれに関連した周辺領域との投射関係について詳細に調べるために、(1)抗体染色法による神経伝達物質の包括的調査、(2)蛍光ニッスル染色法や脂溶性蛍光色素による逆行性染色による脳全体構造の調査と3D再構築、(3)マルチカラーゴルジ染色法による海馬小領域における神経細胞形態の調査、を並行して進めた。(1)では海馬局所領域においてセロトニン神経終末を発見し、また(2)では海馬局所部位から脳の他の部位への神経投射解析を進めている。また(3)ではメス鳥およびオス鳥海馬局所領域での神経細胞構築の違いについての知見を集積した。
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