社会的欲求の脳内機構を解明するためには、非社会的欲求の脳内機構との比較が必須である。社会的欲求も非社会的欲求も、内発的な動機に基づく欲求と外発的な動機に基づく欲求とがあると考えられるが、内発的動機の脳内機構については全く未知である。そこでまず非社会的欲求に焦点を絞り、内発的と外発的の動機とを区別し、それらがどのように脳内で相互作用しているかについて調べた。その結果、線条体が、外発的動機を起こす外的報酬にも、内発的動機を起こす内的達成感にも反応することが明らかになった。また、両者が併存する際には、前者が後者を抑制することを行動実験によって明らかにした。つまり、成功のみでは、内的達成感を得られなくなってしまったことを意味する。それに対応して、線条体も、課題への成功のみでは、反応しなくなった。このことは、課題自体の内的な価値が、外的な価値との比較によって、変容することを示唆する。 自分の好きな物を諦めざるを得ないという事態に直面すると、人はそこに矛盾(認知的不協和)を感じ、諦めた物の価値を低めることがある。これも、認知的に価値を変容する一例である。この認知的不協和による価値変容については、最近、その存否が疑われていたが、自己報告と、それを裏付けるfMRI実験とによって実証した。認知的不協和の強さに相関して、帯状回前部と前頭前野背外側部が活動し、線条体は、価値の変容に従って、活動の大きさを変化させた。これらの結果は、価値が行動を決定するばかりでなく、逆に行動が価値表現を変容させ得ること、その神経基盤として、前頭葉と線条体が重要な役割を果たしていることを示した。
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