本研究計画は、行動中の大脳内の遷移状態を理解するために、マルチニューロン記録法を活かして、ラットが自らのタイミングで内発性運動を開始する瞬間に、海馬や大脳皮質ではどのような神経細胞の集団活動の変化がみられるのか、さらには両領域間で表現される情報に何らかの相互作用がみられるのかを生理学的かつ理論的見地から解析することを目指したものである。初年度は、オペラント学習により効率よく内発性および外発性運動課題を繰り返す行動実験系を確立した。当年度は、このような内発性および外発性運動を遂行するラットを対象にして、一次および二次運動野(一部は海馬)に2シャンク4テトロード配列型の16chシリコンプローブを挿入するマルチニューロン記録実験を実施した。その結果、両運動野ともに、運動を発現中にRegular spiking(RS)細胞やfast-spiking(FS)細胞は運動の保持や実行に関与する活動がみられ、それらの間で同期的発火がみられることを観察した。この同期的発火を示す細胞群には「ハブ」の存在が認められた。さらに、傍細胞記録によるナノ刺激法も援用して、この同期的発火の特性を詳細に解析した。ラットの一次運動野と二次運動野の機能は基本的に類似しており、機能的分化が著しい霊長類の運動諸領域とは対照的であった。また、マルチニューロン記録の解析のために、理論系研究者の酒井裕博士と緊密な共同研究体制を築いており、スパイク・ソーティングやその後の各種解析を円滑に実施できる環境を整え終えた。
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