本研究年度では、サルのトレーニング、実験環境の整備、および複数の条件による行動実験を行った。各段階において大きな問題は生じず、本研究課題は順調に進行している。現在は収録された行動データについて解析と論文執筆を同時並行に行っている。これまでの解析結果からは、主に以下の2つの結果が示された。 向い合った2頭のサルがボタンを押した時間について検討したところ、2頭のサルのボタン押しが同期していたことと、それがランダムな現象でないことが示された。さらにサルの間に壁を設置し、互いが見えないような条件で行った試行では同期はあまり認められず、これは視覚情報の効果を反映したものであると示唆された。 一方、サルのボタン押しの速さが条件に応じて変化し、その変化は視覚情報の有無によっても変化することが示された。単独でボタン押しを行った条件でのボタン押しの速さと比較すると、速さが有意に変化していることが示された。なお単純な同期が生じているならば、相手のボタン押しと同じ速さで行われるはずであるが、実際にはそのように変化してはいないことも示された。 以上の結果から、対面した他個体が自身と同様な動作をしていると、観察しているサルの行動が変化することが示された。またそれがリズミカルな動作の場合にはその行動が同期する傾向にあることが示唆された。このような結果はわれわれの知る限り、実験環境下での動物モデルでは初めて明らかとなった社会的交互作用であり、社会性の進化を探る上で意義のある結果であると考えられる。次年度に計画している神経科学的研究によって、このような同期現象を成立させる脳内機能を検討する。したがって本研究年度の結果は、行動上のデータを示すばかりでなく、社会行動のための意識的・無意識的な脳機能を明らかにする上でも、重要な基礎データであると考えられる。
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