本研究課題の目的は、2頭の向い合わせに座らせたニホンザルに規則的な反復運動を遂行させ、その行動と脳活動を観察・検討することを目的としている。本年度は、新たな行動課題を実行させながら、同時に脳信号の記録およびその解析を行った。 時空間的要因、社会的要因を検討するために、パートナーにビデオクリップを利用した条件を設定して実験を行った。このVirtual Monkey(VM)条件では、実際のサル(RM)がボタン押し課題を遂行しているビデオクリップを実際のサルの代りにパートナーとして使用した。その結果VMのボタン押しの速さが変化した直後にRMのボタン押しの速さも変化していることが観察された。このことは、RMがVMの影響を受けていることを示している。ただしVMの速さとRMの速さの変化は一致した傾向を見せなかった。すなわちサルは単純にvMonkeyの速さに追従したわけではなく、むしろ速さの変化傾向は、変化直前の自身のスピードからもっとも近いハーモニクスに向かうことが示唆された。 脳活動計測では、128chのECoG信号をチャンネルごとに時間-周波数解析を行った。vMonkeyの速度変化に伴う脳信号の変化を比較したところ、複数の脳領域(前頭前野、運動野、視覚野、上側頭溝周辺、上側頭回吻側部)で有意な変化が認められた。またそのような変化は、vMonkeyの速度変化から1~2秒後に70~80Hzの帯域で一過性の変化が生じていた。 本研究の結果から、ニホンザルにも無意識的な同期現象が観察され、その行動は本研究で構築された実験系によって完全に制御可能であることが示された。また同期現象には複数の脳領域が関与しており、その範囲は脳全体に及ぶものであった。今後、これらの領域の機能的連絡を詳細に検討することによって、ヒト自閉症等、他者との社会活動に影響を及ぼす疾病の治療法に役立つものと期待される。
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