本研究の目的は、他者との協調行為の生成のためのメカニズムを理解することにあり、本年度はそのための認知神経科学的なモデルを提案し、その作動の基本的性質をロボット実験を通して検証した。筆者らは、人間は他者の行為を自分の行為との関係から予測するような内部モデルを獲得していると想定する。内部モデルは学習によって獲得され、その学習が進むことによって相手の振る舞いの予測精度は上がる一方、相手が非協調的な自分勝手な行為をしている部分については予測学習は進まず、予測誤差は減らないと考える。このとき、その予測誤算の絶対値、つまり予測の分散をも予測できたとしたら、その予測の分散の予測を持って注意の度合いを制御できよう。つまり相手の振る舞いが予測できると予測する場合は(協調的な状況)、相手の振る舞いに注意し、逆の場合は無視するのである。ここで予測の分散の予測とは、メタレベルでの自分と相手の関係のモニタリングであり、心の理論を構成する際の重要な要素となる。上述のようなメタレベル予測を行うような神経回路モデルを構築し、そのモデルの作動を確認するために実ロボットを用いた実験を行った。実験において、一台のロボットがランダムな位置にオブジェクトを置き、もう一台のロボットがそのオブジェクトに視線を向けて手で触ることを繰り返すタスクを学習させた。その結果、予測できない部分(物体はどこに置かれるか)と予測のできる部分(物体が置かれた後)に関する注意を自発的に切り替えて学習が進むことが確認され、ロボットはスムーズに協調行動を生成しうることが確認された。
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