本研究は、2頭のサルに競争的ゲームを行わせ、競争相手の存在やその行動がもう一頭のサルの行動やニューロン活動、神経伝達物質の動態にどのような影響を与えるのかを詳しく調べようとするものである。 本年度はまず2頭のサルがコンピューターディスプレイ上でお互いが弾を打ち合う、という対戦型シューティングゲームを訓練した。そこでは、早く標的に弾を当てたサルは報酬が与えられ、敗れたサルには報酬は与えられなかった。ここで競争相手として、(1)異なった複数のサルを用いる、(2)サルがヒトを相手として競争する、(3)サルの相手はサルではなく、コンピューターである、あるいは(4)相手のサルはいるが実際に打ち返してくるのはコンピューターである、といういろいろな事態で訓練した。 サルがサルと対戦している条件と、その他の相手と対戦している条件では、シューティングの準備反応(スタートボタンを押す頻度)に有意に違いが見られた。この結果は、サルが対戦相手を区別していたことを示している。特に、サル対サルで対戦する時には、サルの競争に対する「モチベーション」が高まっていたのかもしれない。訓練が完成したサルの前帯状皮質からニューロン活動を記録する研究を開始した。その結果、(1)相手がサルかヒトかコンピューターか、またサルはどのサルであるのか、によって異なった活動を示すニューロンが見出された。また、(2)「競争に参加しないサルが単にそばにいるだけ」という条件と、「実際に対戦相手がいる」条件での比較を行ったところ、多くのニューロンが異なった活動を示した。こうした結果は、前帯状皮質が「競争」において、社会的情報と勝ち・負けに関する情報を統合するのに重要な役割を果たしていることを示すと考えられる。
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