本研究は、2頭のサルに競争的ゲームを行わせ、一方が勝てば必ずもう一方は負け、一試合ごとに勝ち・負けが変化するような事態で、競争相手の存在やその行動がもう1頭のサルの行動やニューロン活動にどのような影響を与えるのかを詳しく調べることにより、コミュニケーション行動としての競争の脳メカニズムを調べたものである。脳活動としては特に前頭連合野のニューロン活動に注目した。 行動上では、サルが同じように標的に弾を当てるというゲームでも、1頭で行う非競争事態に比べ、競争事態では、弾を撃つまでの潜時が短くなり、その正確さが増すことを見出した。前頭連合野背外側部のニューロン活動を記録したところ、同じようにターゲットに弾をあてて報酬を得ても、競争条件で非競争条件におけるより大きな活動を示すニューロンが多数見つかった。それとは逆に、報酬を得ることができなかった場合も、競争で負けて報酬を得られなかったときに、非競争条件で報酬が得られなかった場合より有意に大きな活動を示すニューロンも多数見出された。 競争条件ではサル対サル、サル対コンピューターの2種類があった。この2つの競争条件で、勝ちや負けに関係した活動を示すニューロンを調べたところ、サル対サルの競争でより大きな活動を示すものが圧倒的に多いことが明らかになった。これは、コンピューターとの競争よりサル対サルの競争で社会的相互作用が大きくなることを反映しているものと考えられる。 これらの結果から、前頭連合野は競争の結果を捉えて、その結果に基づき、競争に勝つために行動を変容することに重要な役割を果たしていることが示された。特にサル対コンピューターの場合より、サル対サルの競争で前頭連合野がより大きく活動したことは、他者との競争は、認知活動を高めることにつながることを示している。
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