本研究では、生化学的な精製手法およびリコンビナントタンパク質を用いた試験管内反応系を駆使し、核内糖(O-GlcNAc)修飾シグナルの作用点を明らかにすることを目的としている。まず、新しい「核内糖タンパク質」を探索するため、抗O-GlcNAc化セリン/トレオニン認識抗体(RL2)を用いたアフィニティー精製をおこなった。細胞からクロマチン結合タンパク質を抽出し、これを小麦胚芽レクチンによって粗精製した。さらにRL2抗体によってO-GlcNAc化タンパク質のみを網羅的に取得した。これらを液体クロマトグラフィー-質量分析計によって解析した結果、全284因子の同定に成功した。これらの中から、今までに知られていなかったヒストンタンパク質のO-GlcNAc修飾に着目した。さらに、リコンビナント糖転移酵素(OGT)を使ったin vitro GlcNAc修飾系を活用し、ヒストンH2Bタンパク質上のO-GlcNAc化部位を電子伝達解離(ETD)質量分析計で同定することに成功した。既に、これを認識する特異的抗体を作出済みであり、さまざまなアプリケーションに応用を試みている。中でも、ヒストンタンパク質の新たな翻訳後修飾という性質上、これがゲノム上のどのような遺伝子上に存在しているのかが最大の疑問となるが、これはクロマチン免疫沈降-シーケンシング(ChIP-seq)法によって解決することができる。現在、パイロット実験を数回試行し、いくつかの標的遺伝子群をみつけているところである。さらに、マイクロアレイの結果とハイブリッドさせることにより、この修飾が転写反応と密接な関係にあると考えている。今後、われわれの見出したこの新しいヒストンH2B O-GlcNAc修飾の分子レベルでの作用機序について主に試験管内で解析を進めることにより、どのように遺伝子発現と関係しているのかを解明していきたい。
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