Gタンパク質共役型受容体(GPCR)は細胞外からの刺激物質(アゴニスト)を受容して細胞内シグナル伝達系を駆動するが、その活性状態への変換メカニズムは、構造アンサンブルの中にGタンパク質を活性化する構造(活性構造)が含まれるという二状態モデルや、アゴニストの結合によってGPCRの構造が変化し、活性構造を獲得するというInduced-Fitモデルで説明されている。本研究では、ロドプシンを実験材料とした1分子観測法を利用して、これらのモデルについて検討した。 これまでの研究から、ロドプシンに結合したAlexa594の蛍光強度を1分子観測すると、各分子の蛍光強度はステップ状の増減を繰り返することがわかっている。このステップ状の増減が、メタロドプシンIとメタロドプシンIIの熱平衡を表していると考えられるが、測定ノイズのために蛍光強度の変化点を決定するのが困難であった。そこで、ベイズ推定を応用して蛍光強度の変化点を自動的に検出するプログラムを作成し、蛍光強度の変化量と滞留時間のヒストグラムを作成した。そのpH依存性を調べたところ、バルク測定から予想される結果とよく一致したので、1分子計測で観測された蛍光強度の高い状態が活性構造であると結論づけた。 次に、活性構造への構造変化に対するリガンドの役割を検討するため、ロドプシンのアポタンパク質であるオプシンをAlexa594で標識し、同様の1分子測定と解析を行った。その結果、オプシンでもステップ状の蛍光強度の増減が観測された。このことから、アゴニストとインバースアゴニストのいずれも結合していない状態では活性構造と不活性構造の平衡になっており、アゴニストの結合によって両者の平衡が活性構造側にシフトすると考えられた。
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